尖閣問題のまとめかもしれない。
とてもクールだ。

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■今回の質問【Q:1279(番外編)】

 中国の対日感情が悪化しています。悪化した日中関係がこのまま続いた場合、経済的に損失がより大きいのは、日中どちらなのでしょうか。

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                               村上龍
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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

「誰にとっての、どのレベルの損得か?」

 JMMは、伝統的に、問題そのものへの「視点」を問うことを得意としてきたメディアでした。このことを思い出しつつ、昨今の尖閣諸島を巡る領土問題の悪化が、日中双方の何れにとってより大きな損なのか、という編集長の問いを考えてみます。

 今回の問いの中には、領土問題の拡大が貿易や投資など経済に影響を及ぼすことが日中両国何れにとっても「損」であるとの含意があるのではないでしょうか。確かに、これは、「自由な取引は当事者双方の利益」という自由経済の根本原理に照らして当然であるようにも見えます。この観点では、領土問題が理由で貿易が阻害されるとすると、商品の、買手も売り手も損をします。

 しかし、双方にとって損なら、なぜ、領土問題がそこまで悪化する可能性があるのでしょうか。経済的な論理では、もう少し先を、あるいは前提条件について、考える必要があります。

 先ず、「日本が」、「中国が」といった形で、あたかも「国」という主体が、自らの損得に従って意思決定を行っていると考える枠組みが、現実を理解する上では不適切なのではないでしょうか。

 両国の一部の政治家にとっては、領土問題の先鋭化が利益になるかも知れない。両国のある企業にとっては、それが「損」かもしれないし、別の企業にとっては「得」な場合もあるかも知れない。個々の国民にとっての、この問題の損得判断も多様でしょう。

 日本の個人について考えましょう。たとえば、ある人にとっては、尖閣諸島が中国のものになることは、日中貿易の縮小やこれに伴う不景気の苦痛を上回る精神的苦痛をもたらす出来事でしょう。彼にとっては、目先の金銭的な犠牲を払ってでも、日本が領土防衛に力を入れることの「効用」が大きいでしょうし、それは、一つの経済的な選択です。

 また、別の人は次のように考えるかも知れません。尖閣諸島は自分が住む場所から十分遠くにある。これを守るために、コストが増えて税金増えることには個人的に反対だ。尖閣諸島の近くに埋蔵されているかも知れないエネルギー資源が問題だと言う人もいるが、将来有望な資源が採掘されるようになるとしても、自分はそれを市場価格で買えばいいだけのことだ。日中どちらから買っても大差は無い。仮に、資源が日本のものになるとしても、自分とは別の誰かが儲かるのであって、自分には恩恵は殆どない。尖閣諸島が中国化すると、気分的には少し不快だが、それは、大騒ぎや、まして多大なコストを掛けてまで阻止すべきテーマではない。力の入れ場所として、もっと大切なテーマが日本には幾らもある。こうした考えも、経済的な選択の一つです。

 意思決定の主体を、日中の政府と国民とに分けるとしても、それぞれの利害は多様です。政府と国民の利害のコーディネーションに問題がある場合もあるでしょうし、そうでない場合もあるでしょう。前者の場合でも、影響力のある意思決定者にとっては、コーディネーションが壊れている方が好都合なことがあるのかも知れません(たとえば、武器産業と、これと近い政治家について考えてみて下さい)。加えて、前記のように、国民の考えるこの問題の損得も一様ではありません。

 問題を把握するにあたっても、問題を解決するにあたっても、「国」あるいは「国益」というフレームワークは、曖昧すぎて十分な用をなしません。そして、この曖昧さを意図的に利用する主体が多数存在します。しかし、多くのメディアは、「国としての損得」を中心に語る以外の文脈を殆ど持っていません。



経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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