では、この(アメリカ国民の)分裂状態はどうしてここまで深刻になったのでしょうか。それは「余りに多くの血を流し、今なお殺気に支配されている」ということだと思います。911の膨大な「死」に直面して、惨事の全責任がブッシュ政権にあると考える遺族、そしてブッシュの指導による団結で精神的に救われたと考える遺族には握手の可能性はほぼゼロです。

イラクも同じです。700人近い米兵の死者を前にして、彼等の遺志を完遂しようと考える人間と、このような犠牲を許すな、そしてイラクの民間人犠牲を許すなと考える人の間にも、修復不能な亀裂が生まれます。ファルージャや、ナジャフを取り囲んだ海兵隊も、弱腰と言われて名誉を失う恐怖、殺戮への非難を浴びる恐怖だけでなく、自分が死ぬ恐怖、人を殺す恐怖、つまり「殺気」の中で身動きが取れなくなっている
に違いありません。

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救出された高遠さんの「イラクに戻りたい。イラク人を嫌いになれない」という発言は、他にどのような言い方があるでしょうか。感情的な空想論とは対極にある、したたかな計算とでも言いましょうか、とにかくこの発言で、アラブ世界の「高遠さんへの同情、親日感情」は増しこそすれ、減ることはないでしょう。

この発言によって、行方不明の2名の危険も減りこそすれ増すことはないでしょうし、間接的ではありますが、サマーワの自衛隊に対するテロの危険も減少すると思います。それどころか、自衛隊の人々は働きやすくなるのではないでしょうか。悪いことは何もないと思います。ですが、日本のTV視聴者は日本人が日本語でTVで話していると、それは日本の「世間様」を相手に話していると錯覚するのです。その錯覚から、高遠さんは不遜だ、というような勘違いも甚だしい意見が出てくるようです。

まあ、そこまでは昨今の世相からは仕方がないのかもしれませんが、そうした誤解に基づく悪感情を一国の総理が人気取りに悪用するに至っては、こちらは相当にタチが悪いと言わざるを得ないでしょう。少なくとも生命の危険を冒してきた人が、救われて尚、その国の人が見ているTVで見事に親日感情を拡大する効果のあるセリフを言い放った、それを非難し逆に政治利用をする、これでは為政者として最低の品格にも欠けます。

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